いよいよ載線(車輌輸送最終日)
8月5日深夜,私ことふじまさとkochan氏は明朝に迫ったデハ3499号車の現地搬入を見届けるべく,関越道を北上しました.22時過ぎに熊谷市西別府を出発した輸送車輌に伴走するチームからときどき入ってくる現在位置情報から,どうやら現地到着までに輸送車輌に追いつけるかどうか微妙な感じでしたので,安全運転に心がけながらもはやる気持ちを抑えきれず,走行速度はぬふわ~ぬうわ付近をキープしていたような気がするのはここだけのお話.
深夜2時過ぎに現場到着してみると,どうやら輸送車輌も直前に到着となったらしく,決して広くない二車線道路で切り返しの最中でした.辺りには照明などなく真っ暗なので写真が撮りづらいのは残念です.30分ほどしてデハ3499号車を保存場所の敷地に押し込めると,あとは明朝のクレーンによる吊り上げ載線までひと休みになります.輸送会社の職員さん達も一部を残して宿に引き上げ,現場で警備に当たられる職員さんの車と運転手さんが仮眠されるトレーラーのエンジン音だけが低く唸るだけの静かな夜が訪れます.我々も思い思いに写真を撮った後は,それぞれの車に引き上げて仮眠します.
さすがに夏場の朝だけあって辺りは4時過ぎから徐々に明るくなり.6時前にはすっかり夜も明けて,我々もカメラ片手に車両の周りをうろうろしたり,輸送車輌や前日のうちに先行して載線されている川車3450形台車をしげしげと眺めたり.と,ここで検修課長がとあることに気づきました.「①位側の台車と②位側の台車が逆に置かれている」 なるほどよく見れば速度発電機の付いた軸は②端側になければならないのに,①端側に合わせて置いてあります.ああ,これは車両吊り上げ前に台車の位置を直してもらわないと.その後,検修課長が台車芯皿の錆取りやグリス塗りを行っているうちに,徐々に輸送会社の職員さん達が集まりはじめます.時刻は午前7時30分,ついに載線作業の開始です.
まずは逆に載線されてしまった台車を入れ替えます.予め線路にマーキングされていた位置に設置された台車を職人さんが数人で押して移動し空きスペースを作ります.むぅ,意外になめらかに転がっているように見えますね.さすがコロ軸受け,なんて思いつつも,それはとりもなおさず線路に勾配があれば車両転動の恐れがあるということで,ううむ,ドキドキしますね.その後台車は①端側にあったものを在姿状態のまま吊り上げて②端側に下ろし,さらに②端側にあったものを吊り上げて①端側に下ろす,と言う手順で入れ替えはあっけなく終了.再び線路のマーキングの位置に台車を据えたら,いよいよ車体の吊り上げに移ります.
吊り上げに使用される門形の車両吊り上げ用治具が大型クレーン車によって持ち上げられます.治具は車体の前後の台車を受ける梁の部分に①端側⇒②端側の順で職人さんによりセットされて,念入りに車体に引っかかる閂部分の固定が確認されます.その後作業指揮者が2台のクレーンオペレータに両手で合図を送ると,2台の大型クレーン車のエンジンが唸りを上げて,デハ3499号車の車体が徐々に宙に浮き上がります.敷地の関係で2台の大型クレーン車の配置間隔はデハ3499号車の車体長よりも狭くなっていて,さらに車体はクレーン車を挟んで線路と反対側に搬入されているので,載線は車体を吊り上げた状態で,片側ずつクレーン車のアームを逃がして車体を線路側に移動してから行われました.これらの操作は,全て2台のクレーン車の間に立たれた作業指揮者の指先の指示によって行われます.
端から見ていると,何となく踊っているようにも見える作業指揮者の指示により,デハ3499号車は徐々に台車に近づきます.職人さんたちが台車の位置を微調整しつつ,クレーンオペレータさんの絶妙な操縦により,8時20分過ぎには車体は台車上に無事下ろされました.作業開始から1時間もかからない早業でした.
載線作業が完了すると,引き続き輸送車輌とクレーン車の撤収作業が行われます.輸送用の仮台車や車体の吊り下げ治具がコンパクトにまとめられて,これまた別手配された小型トラックに積み込まれます.おおよその撤収作業も10時過ぎには完了して,職人さん達がひと休みと食事のために一時引き上げます.
デハ3499号車保存会載線見届け隊の面々は,現場が一段落するまでの間,無事に載線なったデハ3499号車を感慨深げに眺めたり,車体を撫でさすったり思い思いの動きをしていましたが,ようやく落ち着いたところでkochan氏作によるサボを①端側貫通路に掲げて,御神酒によるお清めを行いました.ああ,これでこの電車もしばらくはこの地にて安住の日々を送ることになるのですね.その後,②端側でもお清めを行い,車内で台車のセンターピン入れをして一連の載線作業は完了となりました.
あとは研修課長の案内で電車の各部説明あり,車内の汚れ具合に驚き,扉と窓の開閉の難しさ(主に部品老朽化のため)に悪態をつき,車体外板の腐食にため息をつき…といった感じで17時過ぎの撤収まで思い思いの時間を過ごしたのでありました.
さて,デハ3499号車が無事に保存場所に搬入されたことで,ここしばらくの最大の山場は超えることができました.これから現状把握とレストアの日々が始まることになります.実際問題は山積しています.楽しそうでもあり,また辛そうでもありますが,皆さんの協力を得ながらそんなあれやこれやを一歩一歩着実に進めて行ければ,そんな気持ちで帰途についたのでした.